2009-2



平成20年度 第41回 宇都宮賞表彰者決定
             表彰式:3月1日(日)14時00分  会 場:札幌パークホテル
   
酪農指導の部
中曽根 宏氏(岩見沢市)
酪農経営の部
細澤伸一氏(千歳市)
乳牛改良の部
加藤孝志氏(旭川市)
宇都宮仙太郎翁
  
平成19年度 第40回表彰式
  
 宇都宮仙太郎翁顕彰会(理事長;黒澤信次郎)では、かねてから選考中の本年度表彰者について、1月13日(火)に理事会・評議員会を開催し、酪農指導の部1名、酪農経営の部1名、乳牛改良の部1名の計3名を決定いたしました。

 酪農指導の部の中曽根 宏さんは、昭和37年に帯広畜産大学を卒業し、アメリカで3年2ヵ月間の酪農実習を経て、酪農経営を継承。その後、地域の乳牛の能力・体型の技術的向上を図るための仲間作りに努め、乳牛改良の手段である牛群検定事業の地域検定組合の設立、そして運営と推進に尽力され、特に、平成13年のBSE発生に際しては、擬似患畜の範囲の縮小や牛管理のための耳標装着の実現に奔走した。平成15年4月には「いわみざわ酪農ヘルパー利用組合」を設立し、理事として、担い手の定着、酪農家の社会活動の維持、突発的事故時の労働支援等、ヘルパー事業推進に尽力される等、JA・行政に地域酪農振興対策への支援を働きかける中心的な役割を担った。
 また、地域生乳共販運営副委員長として、生産現場での生乳取引に係る諸課題をまとめ上げる一方で、地域の乳質改善の徹底を図る等、関連機関・団体と生産現場とのパイプ役として尽力された功績は多大である。
 平成17年からは、北海道酪農協会空知支部の総会に政策立案の行政機関等の担当者を招いて講演会を企画・開催し、会員との意見交換を行うなど、空知の酪農を守る取組みを実践している。
 最近では、平成19年の配合飼料高騰に際し、北海道を代表して自民党酪政会に酪農家の窮状を訴え、さらに平成20年6月の配合飼料高騰追加対策の決定に当たっては、北海道対策を引き出し、空知という地域を越えた「北海道の農政運動」を展開し、その牽引役として果たした役割は多大であり、地域はもとより北海道酪農業の発展に大きく貢献されている。

 酪農経営の部の細澤伸一さんは、昭和43年、家の火災により大学進学を断念し、父の酪農を手伝う傍ら、通信教育の農業学園に学んだ。
 細澤氏のモットーは、「よい土・よい草・よい牛づくりを基本とした、時代に対応する技術への挑戦」で、常に新時代を見据えた取組みの姿勢を持ち続けている。
 土づくり・草づくりでは、樽前系の酸性火山灰で礫混じりの痩せた土壌を、客土、有機物の投入により土壌改良を行い「牧草の女王」アルファルファ作りの栽培技術を確立し、現在では全草地面積の80%に当たる60haで栽培し、飼養乳牛の高泌乳を支える原動力となっている。
 昭和57年には、全国酪農経営発表コンクールに高能力牛群の能力を引出すために、乳量記録やその他のデータと飼料設計に基づく最新技術のチャレンジフィーディングの実績を発表し、農林大臣賞を受賞した。その牛群は、経産牛30頭で、8頭が乳量1万㌔以上、6頭が乳脂量1,000ポンド以上の高能力牛群であり、この牛群からは、昭和59年から4年間に、9頭の後代検定事業の候補種雄牛を作出した。
 平成8年、北米の大型酪農の視察を契機に、新しい時代に適応する酪農を模索し、省力・多頭数飼養でかつ、先端技術を駆使した高泌乳牛群の管理システム確立を目指し、企業として成り立つ新たな挑戦を夢に農事組合法人を設立した。
 平成10年には、フリーストール、ロータリーパーラー・TMR自動給餌機(1日7回)、有機物自動リサイクル装置を備えた効率的な酪農システムを導入した。
 平成18年には、バイオガスプラントを導入し、近隣の食品加工工場から出る残渣物処理とそれから発生するメタンガスを燃料として販売。生ゴミ処理代とメタンガス販売代が畜産の新たな収入源となり、道内で初めて、家畜糞尿を資源とするビジネスモデル作りに取り組む氏の実践は新しい畜産業の可能性を示したものである。
 現在の経産牛頭数286頭、平均乳量11,717㌔は、頭数規模の大きさもさることながら、国内トップクラスの生産技術を誇る。乳質改善への取組みとしては、乳房への負担を軽減する為1日3回搾乳を実施し、細菌蔓延防止に努め、定期的な牛舎消毒を実施する等、大規模にも拘らず細やかな牛のストレスを軽減する環境整備にも努力されている。
 現在でも、牛群検定・登録事業に積極的に取組み、特に後代検定事業では毎年調整交配に約60頭を協力するとともに、保留娘牛の体型調査も毎年実施している。

 乳牛改良の部の加藤孝志さんは、昭和46年名寄農業高等学校を卒業後、家業の酪農に従事し、市町村並びに管内の乳牛共進会に積極的に参画し、他の酪農家との乳牛改良の技術交流を進める中で、「体型と泌乳能力のバランスの取れた牛群造成と生涯生産性を追及すること」を改良目標に置き、血統登録をはじめ牛群検定・牛群審査には積極的に取組み、牛群全体の改良を主体に、北米の優秀な遺伝子導入を推進し、牧場に適応する牛群の基礎を造るための情報収集と実践に努力されている。
 平成8年に北海道が事業主体として推進した新需要適合型乳牛改良モデル事業により輸入した受精卵から生まれた娘牛2頭が、氏の培った改良技術と的確な血統の選択眼によって牧場に見合った改良目標の基礎として導かれ、この2頭から受精卵を採取・移植し、「マウイ」の一族が、体型・能力で非常にバランスの取れた系統として、農場内の総頭数の70%を占めるに至っている。
 その成果は、牛群検定成績乳量10,955㌔、乳脂率3.71%、乳蛋白率3.36%、平均体型得点で86.6点と体型・能力のバランスの良さは正に北海道屈指であり、遺伝的改良情報においても、全国で公表されている雌牛NTPのトップ10%以内に、牛群の26%にあたる10頭が入っており、改良集団のトップクラスに位置づけられている。
 また、乳牛の事故率を低下させるため、特に、乳器・肢蹄を重視した選抜・淘汰を行い、初産の平均乳量8,300㌔と初産から無理して搾ることはせず、生涯生産性の向上のために長命・連産性に富んだ牛群の作出に努力されている。
 また、共進会においても常に上位の成績を残し、平成17年開催の第12回全日本共進会栃木大会に2頭出品し、経産(6~9部)名誉賞と経産(10~12部)準名誉賞の栄誉に輝き、最近ではその準名誉賞牛が2008年北海道ブラックアンドホワイトショウにおいてグランドチャンピオンを獲得し、その実績が追認されている。

 表彰式が行われる3月1日(日)には顕彰会会員他関係者の多くの方々にご出席いただき、受賞者をご祝福くださいますようお待ちしております。
  



第12回世界ホルスタイン・フリージアン会議
(2008年10月9日~11日:アイルランド共和国・キラーニー)
 先月号に引き続き、第12回世界ホルスタイン・フリージアン会議の概要を報告します。最終回となる今回は、会議のセッション5および6で行われた調査研究発表の内容を紹介します。

 セッション5および6で行われた各発表のタイトルと発表者は以下の通りです。
セッション5:受胎率改善のための全体的視野からの解決法
乳牛の繁殖能力の構成要素と補助的な形質 Herman Swalve教授(University of Halle, ドイツ)
管理と遺伝を通じて受胎率を改善する Tom Lawlor博士(Holstein USA, アメリカ)
高能力牛の栄養管理 Finbar Mulligan博士(University College Dublin, アイルランド)
セッション6:ホルスタイン・フリージアン - その能力を最大に -
代謝障害を防ぐための栄養的な解決策 Martin Kavanagh氏(Keenan社, アイルランド)
ホルスタイン種の長命性における機能的体型の重要性 Gordon Atkins博士(D.V.M, カナダ)
ブリーダーの使命 Hank VanExel氏(酪農家, アメリカ)
     
   
【Session5:受胎率改善のための全体的視野からの解決法】
   
 最初の発表は、ドイツにおける繁殖能力低下に対する遺伝学的な取り組みに関するものでした。
 酪農家および乳牛改良において、繁殖能力は生産性に匹敵するくらい重要な形質です。世界的に見ても、能力の改良が進む一方で、繁殖能力は低下傾向にあります。繁殖能力の低下に対しては、世界各国でその基本対策がなされていますが、この基本的な対策のみですべてをカバーしきれないのが現状です。
図.世界におけるホルスタイン種の繁殖形質の遺伝的トレンド
   
 遺伝評価における取り組みとして有効なものには、分娩および授精に関するデータの利用が挙げられます。ドイツの遺伝評価では繁殖に関わる形質として、未経産牛の受胎能力、経産牛の発情回帰能力、経産牛の受胎能力および空胎日数を扱っています。そして、これらの具体的な指標として、繁殖能力指数であるRZRが用いられています。

発情回帰 分娩から初回授精までの日数 25%
受 胎 ノンリターン56 未経産 12.5% 75%
経 産 25%
初回から最終授精までの日数 未経産 12.5%
経 産 25%
表.RZRの構成形質とその割合
*ノンリターン56・・・・・初回授精から56日目までの授精の有無
   
 このような選抜指数を用いて繁殖能力の改善を目指していますが、問題なのは繁殖に関わる形質の遺伝率が極めて低いことです。ドイツにおける初回授精から最終授精までの日数の遺伝率は0.02、また分娩から初回授精までの日数は0.04と共に低くなっています。そこで、補助的な形質としてボディ・コンディション・スコア(BCS)やプロジェステロン(繁殖に関わるホルモン)値の利用といった研究が進められています。プロジェステロン値の利用とは、その測定値から発情サイクルを特定するものです。この形質の遺伝率は0.09~0.29の範囲で推定されており、繁殖能力改善の一助となることが期待されています。
 さらに、最近ではDNA情報の利用にも注目しており、今後さらなる研究を行い有効活用したいとの考えを示しました。
  
 次の発表は、同様の事柄に関してアメリカからのものでした。
 繁殖能力の低下には、世界中のブリーダーが危機感を持っています。実際、アメリカでの淘汰の際の生産能力と繁殖能力を重要視する比率は、1982年に4.3対1だったものが2000年には1.3対1になっており、繁殖能力がかなり重要視されるようになっていることが窺えます。
 繁殖能力を改善するためには、その基本として以下の3点に注意しておくことが必要です。
・ 何頭の雌牛を繁殖させるのか
・ どの雌牛を繁殖させるのか
・ 授精を開始すべき時期はいつか
 以上のことを踏まえたうえで、牛群管理および遺伝的改良の両方からアプローチすることが、繁殖能力の改善に効果的です。
 アメリカでは、分娩後の初回授精までの日数が年々早くなる傾向にあります。そして、初回授精が早いほど受胎率が低くなるという結果が出ています。しかしながら、国内の発情同期化を行っている牛群を対象とした調査結果によると、定時授精を行っている牛群では、定時授精をしていない牛群に比べ受胎率は低いですが、妊娠率は高くなると報告されています。
 

定時授精の有無 初回授精までの日数 受胎率(%) 乳期あたりの授精回数 妊娠率(%)
なし 90 30 2.6 20.2
あり 72 25 3.1 21.7
表.定時授精を行う農家と行わない農家での繁殖性の比較
   
 すなわち、管理面においては授精適期の判断とより細かな繁殖管理が重要と言えます。
   

   
 繁殖能力を遺伝学的側面から取り扱うとき、まず二つの考え方が存在することに注意しなければなりません。一つ目は娘牛の繁殖能力、もう一方は種雄牛の繁殖能力です。アメリカでは、前者としてDater Pregnancy Rate(DPR、娘牛の妊娠率)を用いており、これはより受胎しやすい娘牛を特定することが出来ます。また後者は、Sire Conception Rate(SCR、種雄牛の受胎率)であり、より受胎率を改善できる種雄牛を特定するために利用されます。
 アメリカでは総合指数TPIにおいて、Productive Life(生産寿命、以下PL)、DPRおよびDairy Strength(乳用強健性)といった繁殖能力に係わる形質に、合計19%重み付けしています。PLは早期に妊娠し産次を重ねるほど高い評価となります。また、DPRを見ると、最も高く評価された種雄牛と最も低く評価されたものとでは、空胎日数に最大で28日の差が生じてきます。
 さらに、最新の研究として、DNA情報を利用する方法(ジェノミクス)が検討されています。DNA情報の利用は、遺伝率の低い形質において高い効果が期待されています。繁殖形質は、特に遺伝率が低い形質であり、DNA情報の利用による改良が期待されています。
 結論として、繁殖能力の問題は世界中で危惧されていますが、管理面および遺伝学的な面から多くの調査研究が行われています。したがって、繁殖能力は必ず改良出来るものであり、将来的な見通しは明るいとの見解を示しました。

 最後は、アイルランドにおける乳用牛の周産期病対策としての農家レベルでの取り組みに関するものでした。
 周産期病は分娩前30日から分娩後30日までの移行期間に多く見られるもので、具体的には、難産、胎盤停滞、子宮内膜炎、ルーメンアシドーシス、ケトーシス、脂肪肝、乳熱、第四胃変位および乳房炎などが挙げられます。このような疾病を予防するためには、以下の点に注意した管理が基本となります。
・ ボディ・コンディション・スコア
・ 負のエネルギーバランス
・ 低カルシウム血症
・ 第一胃の状態

    
 これらの項目ごとに、モニタリング基準を示すことで、乳用牛の健康の評価と臨床的および潜在的疾病の監視を容易にすることが出来ます。モニタリング基準は、科学的な研究結果をもとに作成されています。飼養管理において科学的に裏づけされた方法を組み込むことにより、より効率かつ的確な管理が可能となり、周産期病の予防につながります。
    

【Session6:ホルスタイン・フリージアン-その能力を最大に】

 最初の発表は、乳用牛の代謝障害に関するものでした。
 発表者が飼料会社の職員ということもあり、自社製品の宣伝的な要素が多く含まれていましたが、飼養管理で重要な事として、主に以下のことを説明されました。
 代謝障害とは、分娩後の泌乳初期に多く発生する疾病であり、分娩およびその後の乳生産での代謝需要に雌牛が対応できてないことを示しています。分娩時のホルモンと生理学的な反応による脂肪の蓄積は、すべての雌牛で避けられないことですが、過度の脂肪蓄積は代謝障害を引き起こします。
 特に、分娩間隔の短い雌牛は、乳熱、ケトン病、脂肪肝、ルーメンアシドーシス、変胃、子宮炎および乳房炎などの疾患を患いやすいとされています。そして、遺伝的に優れたホルスタインでこれらの障害がなくなることはありません。
 ところが、一般的にこのような疾病対策は農家の管理範囲外とされてきました。しかしながら、農家レベルで予防対策を行わなければ、収益の悪化を招きます。
 よって、適切な栄養管理を行い、牛群の代謝状態を安定させ、雌牛が遺伝的な能力を最大限に発揮できる環境を整えることが重要です。

 次は、長命性と関連性の高い機能的体型について解剖学的な観点からの発表でした。
 長命性とは、簡単に言うとある牛が牛群内に生存する期間を示すものです。生存期間の長い牛はより多くの乳生産が期待でき、酪農家の収益向上に貢献すると考えられます。乳牛の長命性を改良するとき、機能的な体型は極めて重要な形質のひとつと言えます。特に、乳器や肢蹄は長命性との関連性が高いとの研究結果が多数報告されており、これらの形質がどういうものなのかを正しく理解しておくことが必要です。
 2005年、長命性への注目度の高まりから、カナダの体型審査標準は大きく変更されました。それは、乳用牛の特質と体積が1つにまとめられ乳用強健性となったことです。これに伴い、肢蹄に対する重み付けが25%にまで引き上げられました。
1990年 1993年 1998年 2005年
乳  器 40% 40% 40% 40%
肢  蹄 12% 16% 20% 25%
乳用牛の特質 16% 14% 12% 乳用強健性
25%
体  積 22% 20% 18%
10% 10% 10% 10%
表.カナダにおける体型得点形質の変遷
    
 長命性に係わる機能的な体型は、線形形質からより詳細に知ることが出来ます。長命性に深く関連性のある線形形質としては、前乳房の付着、乳房の質、乳房の深さ、後乳房の高さ、後乳房の幅、靭帯の強さ、骨質、鋭角性、後肢側望、後肢後望などがあげられます。
 線形形質を正しく理解するとき、解剖学的な視点は非常に役立ちます。線形形質と言っても、解剖学的な構造がどのようなものかを理解しておくことの重要性を強調されました。実際の発表において、以降の説明はDVDの映像を用いて行われたため、この記事で文書にて説明するのは割愛しますが、主に以下の4点について説明されました。
・ 乳器の構造
・ 肢蹄の構造と歩様の関係
・ 乳用強健性(胸と腹部の構造)
・ 尻と肋の骨格

 最後は、ブリーダーとして自身が心掛けてきたことについて、アメリカの有名なブリーダーであるハンク・バン・エクセル氏が発表されました。
   
 バンエクセル・デーリィでは、これまで57頭のエクセレント・カウおよび196頭のベリーグッド・カウを生産しており、四つの州の共進会でグランドチャンピオンを獲得しました。また、牛群の産乳能力の平均は乳量29,000ポンド(約13,000㎏)、乳脂量1,000ポンド(約454㎏)を記録しています。
 乳牛改良において自身が注意している形質は、尻の構造、肢蹄、乳器および乳用強健性であり、改良を進めるために遺伝評価値や共進会を活用することの重要性を強調しました。また、よく改良された牛はビジネス・チャンスであり、共進会はその牛を多くの人に見てもらう場として重要であるし、改良度合を客観的に示すものとして非常に重要であるとの持論を示しました。


  
 以上で、第12回世界ホルスタイン・フリージアン会議の報告を終了します。この世界会議に参加させていただき、世界的な改良の方向性を知ることができ、また乳牛改良の重要性を改めて認識しました。乳牛改良が終わりになることはありません。より優れたホルスタインを追い求め、さらなる改良の一端を担うことが出来るよう、今後の業務に邁進する所存であります。今回、このような研修の機会を与えて頂いたこと、ならびに何事もなく無事研修を終えられたことに感謝申し上げ、終わりの言葉と致します。なお、2012年に行われる第13回世界会議はカナダのケベック州で開催される予定です。
(総務部 柾谷、電算部 岡﨑)
  
第12回世界ホルスタインフリージアン会議日本代表団
   



~飛躍~ 第5回全日本ホルスタイン共進会
 シリーズ9回目を迎えた今月号は、第5回全日本ホルスタイン共進会の様子を振り返ってみます。
 第5回全共は1970年(昭和45年)11月20日(金)~24日(火)の5日間、愛知県豊橋市で開催されました。前回までの全共は、全て春3月に開催されていましたが、この第5回は秋も深まる11月末の開催となりました。この後は、第7回を除き10月あるいは11月にその開催が行われています。
 ちなみに! 次回の第13回全共北海道大会は、2010年(平成22年)10月8日(金)~11日(月)の開催予定となっています。
  
 第5回全共では、44都道府県から295頭の出品があり、名誉総裁として秩父宮妃殿下を仰ぎ、外国からはアメリカ・カナダ・韓国など50余名の視察団が訪れました。この全共では、酪農家による酪農家のための共進会として位置付け「見せる共進会」のねらいを以て企画されています。出品牛と審査の進行を多くの人がよりリングに近い所で観覧出来るように配慮し、会場に用いられた野球場の外野部分を3つの審査場に区分けし、外野席と内野部分に観覧場所を設け、総勢24名の審査員団によって慎重かつ丁寧な審査が行なわれました。
 北海道の出品牛は50頭(前回42頭)であり、そのほとんどが上位入賞を収め、名誉賞6部門のうち5部門(残る1部門はホ種系で、北海道の出品は無い)と、優等賞61点のうち29点を獲得する好成績でした。

第5回全共  出品頭数    295頭
ホルスタイン種 雄   牛 第1部 15頭   12月~29月
未経産牛 第2部 37頭   12月~15月
第3部 31頭   16月~19月  
第4部 46頭   20月~23月  
第5部 31頭   24月~29月
経 産 牛 第6部 15頭   ~47月
  高等登録牛・保証血統登録牛または申請中
第7部 14頭   48月~71月
  2産以上
  高等登録牛
第8部 21頭   72月以上
  3産以上
  高等登録牛
ホルスタイン種系 未経産牛 第9部 7頭   12月~29月
経 産 牛 第10部 7頭   2代・初代本登録牛または申請中  
父系統群 第11部 19組   4頭 1組  
母系統群 第12部 8組   母・娘2頭
乳器特別審査の部         経産の部出品牛  39頭
高等登録牛・保証血統登録牛:審査得点・検定能力が基準を満たし登録証明されたもの
 その中でも素晴らしい成績を収めたのは、札幌市厚別町(当時)の宇都宮牧場出品牛で、母牛と息子牛で名誉賞受賞に輝きました。そして、この母牛の父牛は第3回全共の名誉賞受賞牛で、その父牛の息子牛は第4回の名誉賞受賞牛であり、雄牛の部の名誉賞は第2回~第5回まで4回連続で宇都宮牧場が受賞しています。さらに、第1回~第5回までのホ種系と系統群を除く名誉賞数14点のうち7点が宇都宮牧場の受賞でした。ちょっとややこしい説明になりましたね。表にすると以下の通りになります。

   
     第3回雄牛名誉賞牛 カードア ウオーカー
             1959(昭和34年).3.23生 当時2才0月
↓娘
     第5回経産牛名誉賞牛 2 スカイラーク サイクロン オームスビー
             1962(昭和37年).10.11生 当時8才1月
↓息子
     第5回雄牛名誉賞牛 センーミヤ ダブル チヤンピオン
             1969(昭和44年).3.25生 当時1才7月
 雄牛名誉賞牛の名号のとおり、ダブルチャンピオンの栄誉に輝いた宇都宮牧場でした。
 なお、第1回全共から設けられていた雄牛の部については、この第5回を以って廃止となりました。

〔人工授精の歴史〕
 第5回全共が行われた1970年代、人工授精の新たな技術の実用化と発展がありました。それは、液状精液から凍結精液への移行でした。1頭の種雄牛からの娘牛生産は、凍結精液の出現により、限られた地域から全国各地へと広がり、その頭数は2~3桁の数から4~5桁の数へ拡大するという大きな変化の時を迎えていました。
 日本での人工授精の始まりは、今から100年ほど前の1910年代(明治末)に遡ります。その対象となったのは、牛ではなく馬へのもので、当時、軍馬として飼育生産する法律が定められ、その制度は随時整備された中で、軍への徴用のために育種改良と増殖を積極的に進めなければならない状況が背景にありました。
 1930年(昭和初期)代には、牛・綿羊・山羊・豚・兎などにその研究と繁殖の応用がされており、ある地域では生殖器伝染病の予防のために牛への人工授精が行われた記録がありますが、その普及については全国的規模にはまだ至っていませんでした。第2次世界大戦終戦と同時に、軍馬育成に関する法律が廃止され、馬の頭数が急激に減少し、それに伴い人工授精の頭数も激減してしまいましたが、それとは逆に、牛への人工授精の頭数は増加を始めており、1950年(昭和25年)に家畜改良増殖法の公布を得て、人工授精の基盤が確立され、以降の飛躍的な発展と普及を迎えるに至りました。また、凍結精液に係る研究もこの頃から行なわれており、1965年(昭和40年)前後には液体窒素による-195℃の急速凍結と保存の技術が実用化し、第5回全共が開催された1970年(昭和45年)代に入り、人工授精のほとんどが液状精液から凍結精液によるものに切り替えられました。
      
 凍結精液の出現により、時間と距離の制約が無くなり、利用効率に飛躍的な向上をもたらし、都道府県単位で行われていた改良事業は全国規模の事業へと発展を促すことにもなりました。この後、種雄牛が集約された広域種雄牛センターの設置、牛群検定の普及、後代検定の実現などを柱とする「乳用牛改良組織整備事業」が施策され、今日に至っています。
 第1回の全共を返り見ると、ホ種系として乳役両用牛の出品があり、その重要性と今後の発展を望む講評が述べられていましたが、その『役牛』が、乳生産を求めた『乳牛』や、肉質を求めた『肉牛』へと変化(改良)を成し遂げたのは、人工授精とともに凍結精液が用いられたことがその大きな要因といえるでしょう。
 ここで、第1回~第12回全共までの各出品頭数とその父牛の頭数を集計してみました。
 出場頭数に比べ、その父牛の頭数は1970年(昭和45年)の第5回全共以降少なくなっています。先の説明のとおりの結果となっております。第5回全共は、群雄割拠の時代から、少数精鋭の時代に移り変わて行く様子が窺えます。
 
〔生まれた時から言葉を教える〕
 第3回~第5回全共に連続出場し、第5回では未経産の部で、北海道を除く都府県出品牛の最上位の優等賞を獲得した千葉県:大小原安子さんの微笑ましいインタビューがデーリィマン誌に掲載されていましたので紹介します。
 第3回~第5回に出場させていただいてほんとうに喜んでいます。私は主人と二人で改良について話しますが、牛に関しては良い競争相手です。この系統の牛ならばこれくらいのものに仕上げなくてはいけないというように、一頭ごとに目標をもっています。
 共進会に出す牛については、生まれた時から言葉を教え込みます。第3回(雄牛を出品)の時に、調教では日本一だと藤本審査員(藤本寅之助氏)にほめられました。
 こんどは、言葉で耳を立てられるようになりました。
 私は、牛に愛情で接するように心がけています。子供より言うことを聞くようですよ。
 今回くらいで卒業しようかとも思っていたのですが、こんな栄誉もいただきましたし、周囲もすすめてくれますので、まだまだ続けることになりそうです。 
 ほのぼのとした喜びの言葉ですね。大小原さんの上位入賞に際しては、当組合より副賞として育成牛が贈呈されました。(時価150万円相当、2頭の育成牛が副賞として供された)大緊張の連続であった審査(個体審査と3回の比較審査)の後に、上位入賞が待ち構えていて、さらにビックプレゼントが渡された瞬間の喜びは、果たしてどれほどのものだったのでしょうか。
育成牛が贈呈され、観衆に手を振って喜びを表す大小原安子さん
    
〔セリ落とし金額2億円〕
 海外のビックショウや北海道のナショナルショウでは、付帯行事として優良雌牛のセールが開催されていますが、この第5回全共でもアメリカ・カナダ方式のセールが行われました。
 その落札価格は、何と! 2億円!! セリ落とされた金額に、セール会場を埋めた観衆からは大喝采が湧き上がったとの記録がありました。

   
 といっても、これは模擬セールとのことで、当組合と㈱野沢組の共催によるデモンストレーションでした。(楽しそうですね!)
【1970年(昭和45年)】
[出来事]  ・赤軍派よど号事件
・大阪万博
・三島由紀夫切腹事件
・光化学スモッグ
[政 治] 佐藤栄作総理大臣長期政権:連続在任期間歴代総理中最長7年8ヵ月=1964年(昭39.11)~1972年(昭47.7)
[経 済] 経済成長率  11.2%
[世 相] ・不幸の手紙
・歩行者天国
・マイカー時代
[う た] ・圭子の夢は夜ひらく
・ドリフのズンドコ節
・傷だらけの人生
・走れコウタロー
・老人と子供のポルカ
・黒ネコのタンゴ
[物 価] ・牛乳 25円
・ビール 140円
・かけそば 100円
・米10㎏ 2千円
・封書 15円
・はがき 7円
・トヨタセリカ 57万円
・初任給 4万円

 1970年代、高度経済成長が続く日本、酪農界においても生産技術の飛躍的な変化と発展が続いている中、『見せる!楽しい!共進会』として第5回全共が盛大に開催されました。
 来月号では、第5回全共の名誉賞を始めとした上位入賞牛を紹介します。

資料・写真 第5回全日本ホルスタイン共進会記念誌
デーリィマン1971-第21巻・第1号
   




日本ホルスタイン登録協会審査委員任命

審査部審査課調査役 千 葉 義 博

 日本ホルスタイン登録協会は平成21年1月1日付で日ホ北海道支局の千葉義博調査役を審査委員に任命しました。



ひとこと
 昨年の大晦日の紅白歌合戦を見ていると「羞恥心」という変わった歌手(?)が出ていた。
 ご存知の方も多いかもしれないが、彼らは、もともとクイズ番組で、珍解答・迷解答を連発していた、いわゆる「おバカ・タレント」達で、その面白さから島田紳助がプロデュースし、歌手デビューなどを経て人気を獲得したグループである。
 こういった「おバカブーム」を見ていると、本来、知識や教養を競うはずのクイズ番組で自分の無知を晒すことで人気が出るということに対して眉をひそめる方もいるかもしれない。
 確かに必要最低限の知識や教養も必要だとは思うが、それがすべてではないように思える。

 実は、「おバカブーム」というのは19世紀のロシアに既に起きていたのかもしれない。
 その時のブームの火付け役であるプロデューサーは、世界的な文豪のドストエフスキーとトルストイである。
 ドストエフスキーは「白痴」という作品を執筆し、トルストイは「イワンの馬鹿」という作品を発表している。
 このタイトルから推測できるように両作品の主人公とも、世間知らずであったり、教養がない人物として描かれている。しかしながら、ドストエフスキーもトルストイもこれらの主人公を“模範的な人間”として好意的に描いている。
 なぜならば、彼らは、“明るく実直な人間”であったからだ。

 昨年の出来事の中に食品の偽装事件や金融危機によるというものがあった。
 特に、後半にはサブプライムローンという金融商品の焦げ付きにより、リーマン・ブラザーズという大きな金融機関が破綻し、その暗い余波が世界中に広がっている。ただ、サブプライムローンという金融商品を生み出した人間も、リーマン・ブラザーズという金融機関にいた人間も、そのほとんどは教養があり高学歴で、それは「おバカ」とは対極にいる人間だったはずだ。「貴方とは違うんです…」と言ったかどうかは分らないが、そんな彼らが世界中をどん底に落とす「おバカ」なことをしてしまった。

 このことは、知識や教養があること以上に大切な資質があるのではないかと考えさせられる。また、結果を早急に求める現在の社会情勢ともいえると思う。
 昨今は暗いニュースも多い。この経済不安もまだ長く続きそうである。
 だからこそ、明るく実直な「おバカ」でいる必要がある。今年の干支の「丑年」に因んで、牛歩の如く歩むのも良いのではないだろうか。
 ただ、「未曾有」を「みぞう」と読めるぐらいの最低限の教養が必要なのは言うまでもない(笑)。
(hiro)

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