1.分娩難易度の表示の違い
2.分娩難易スコアの分布による違い
3.遺伝率と遺伝相関の違い
4.遺伝評価値ETAの分布の違い
難産率の遺伝評価に利用される分娩難易は、日米ともに5段階に分類され、スコア1が安産、スコア5が極度な難産を示すスコアです。表1には、分娩難易のスコアを日米で比較したものを示しました。日本における分娩難易のデータは、すべて牛群検定によって調査されたものですが、米国における分娩難易は、牛群検定(DHIA)によって収集されたデータが主に遺伝評価に利用されていましたが、最近ではほとんどのデータがAI団体で調査したものが利用されているとのことです。日本の牛群検定で利用している分娩難易スコアは、具体的な説明が付けられていますが、米国の場合は「1:問題なし」、「2:やや問題あり」、「3:介助を要する」、「4: かなりの力を要する」、「5: 極度な難産」とあいまいな表現が並べられています。例えば、「2:やや問題あり」とは人間の介助があったのか? 「3:介助を要する」とは何人くらいの介助があったのか?「5: 極度な難産」とは具体的にどのような状態を指すのかなど、分娩の状態を採点するときに判断するのが難しい場合があるかもしれません。その点、日本の分娩難易スコアは、米国のそれらよりも具体的な状態を明示しているので、もっとも近似した分娩時の状況に当てはめて、スコア化することができます。
表2には、北海道と米国のホルスタインにおける分娩難易スコアの記録数の比率を示しました。難産の遺伝評価を行う場合、米国ではスコア4と5を難産と定義していますが、日本の場合はスコア3、4および5を難産と定義しています。そのため、ホルスタインの初産における難産の割合は北海道において13.4%であり、米国の8.1%と比較して難産の出現頻度が高い傾向にあります。
表3には、北海道においてホルスタインとF1(黒毛和種との雑種)を出産した時の各分娩難易スコアの記録数の比率を示しました。F1交雑の主な目的は肉質の良い牛肉を生産するためですが、それ以外にホルスタインと比較して体の小さい黒毛和種の精液を交配することで、特に初産分娩における難産を少なくすることも理由の一つです。F1生産では難産などあり得ないと考えている人もいるかもしれませんが、ホルスタインの純粋種間の交配と比較してかなり少ないですが、F1にも5.4%の割合で難産になる場合があるようです。
表4には、難産率における直接効果と母牛効果の各遺伝率と両効果間の遺伝相関を示しました。直接効果と母方効果の違いは、図1を見てください。日本における難産率の遺伝率は、米国と比較して低い傾向があります。北海道で定期的に調査している難産率の遺伝率も、米国と比較して低く推定されています。直接効果と母方効果の遺伝相関は、米国と北海道においてマイナスの値を示しました。子牛は小さいほど安産ですが、その子牛が大きくなって母親になった場合、体が小さいので反対に難産になるという、負の遺伝的関係を表しています。一方、日本の遺伝評価では遺伝相関がプラスの関係になっています。
日本の難産率の分布は公開されていないので、北海道の調査資料と米国の種雄牛評価値を比較してみました(図2と3)。母型効果から推定された娘牛の父牛評価値は米国において平均7.8%ETA、出現頻度のもっとも高い最頻値は7%ETAから8%ETAの間にありました。一方、北海道の場合は平均9.6%ETA、最頻値は8%ETAから9%ETAの間でした。北海道における娘牛の父牛評価値は、遺伝率が低いのですが、難産と定義したスコアの出現頻度が高いので、米国のそれよりも若干大きい値を示したと考えられます。娘牛の父牛評価値は、米国と北海道との間に0.68の相関があります。米国から北海道の評価値に変換するには、おおよそですが、%ETADug(HOK) ← 0.0105%×%ETADug(USA)-0.4%の式で行うことができます。
一方、供用父牛の評価値は平均値10.7%ETAであり、娘牛の父牛評価値よりも推定値が若干大きく推定されました(図3)。供用父牛の評価値は米国と北海道の間に0.49の相関があり、%ETAServ(HOK) ← 0.0051%×%ETAServ(USA)+5.5%の式を利用すれば、おおよそですが米国の評価値から北海道の評価値に変換することができます。なお、北海道の難産率評価値は、「ホルスタイン登録牛交配相談システム」の中で利用できます。
掲載日:2011年5月18日