総合指数(NTP)は、ホルスタインにおける国の改良目標を実現するための選抜の道具として1996 (平成8) 年以来、重要な役割を担ってきました。我が国のホルスタイン集団は、NTPを使い始めてから、乳量において年当たり+100 ㎏以上のスピードで遺伝改良が進んでいます。その結果、表型的にみても泌乳能力は急激な上昇を示しましたが、一方で繁殖性の低下や生産寿命の低迷が問題になってきました。泌乳能力と繁殖性との間にはマイナスの遺伝相関が存在するため、NTPを利用した選抜のみでは繁殖性を同時に改良するのは難しく、第2の指数の開発が求められていました。ちなみに、乳量と空胎日数との間には+0.45の遺伝相関が推定されています。
最近の酪農家は輸入精液に関心が高く、2009 (平成21) 年度の国内精液利用率は約55 %まで減少しています。乳牛改良の傾向には、短期的にみると酪農家の多種多様なニーズや流行りがあり、このような改良方針の変化が輸入精液の利用増加の一因と考えられます。一方、NTPは長期的な改良方針を具体化したものですから、NTPのランキングと精液の供用頻度は完全に一致する必要はなく、酪農家が間違った方向へ改良を進めないよう、その指針を示す役割があります。それゆえ、酪農家の多様な改良方針に応えるためには、NTPの他に第2の指数の開発が求められていました。それが今回開発された長命連産効果です。
NTPは、シンプルな構造になっていますが、これは泌乳能力と機能的体型 (特に肢蹄と乳房) に対して強い選抜が確実に加わるようにしているためです。一方、長命連産効果は、泌乳能力、機能的体型、在群期間 (HL)、体細胞数 (SCS)およびボディコンデション (BCS)など、NTPよりも多くの形質を直接考慮しながら、総合的に生産寿命の延長が期待できる種雄牛の選抜に利用されます (表1)。乳牛の生産寿命は非常に多くの要因が関与しているので、生産寿命の改良を目的にした長命連産効果は、NTPと比較して考慮すべき形質数がどうしても多くなります。
また、長命連産効果に含まれるHLは生産寿命を直接説明する形質ですが、HLの育種価それ自体も多くの形質の遺伝的関係 (遺伝相関)を使用して推定されています (表2)。特に、後代検定済み直後の種雄牛はほとんどの娘牛が生存しているので、その場合にHLの遺伝評価で頼りになるのは表2に示した形質との遺伝相関なのです。また、表2からわかることとして、HLと初産乳量との間にはマイナスの遺伝相関が認められます。これは、数値の大きさから無相関に近似した関係を示しています。換言すれば、HLのみで種雄牛を選抜したとしても、泌乳能力が間接的に改良されるとは限らないことを示唆しています。長命連産効果は、泌乳能力の改良も念頭に置きながら生産寿命の改良を進めることができる指数です。
その他、長命連産効果に含まれる形質として、BCSは繁殖性との遺伝相関を利用することで、生産寿命の延長が期待できる種雄牛を選抜するためのものです。ここで、BCSと空胎日数との間には、-0.37の遺伝相関が推定されています。SCSに対する重みは、乳房炎のような疾病の発生を抑制するとともに乳質改善の面からも生産寿命の改良が期待できます。
泌乳能力と機能的体型は、NTPで種雄牛を選抜した方が高い遺伝改良量が期待できます。一方、長命連産効果は生産寿命の改良を重視しながら酪農家の収益を増やすための指数なので、泌乳能力や機能的体型の遺伝改良量だけを見るとNTPよりも劣りますが、生産寿命の改良量はNTPを使用した場合よりも3 倍近く高くなります。また、長命連産効果は、BCSを利用して空胎日数の延長を抑制し (-0.03日/年)、繁殖性の改善にも配慮しています (表3)。
長命連産効果は、HLのような種雄牛のみ公表されている育種価が利用されているので、雌牛には利用できません。また、長命連産効果は生産寿命のみならず泌乳能力も同時に考慮しながら収益性の高い種雄牛を選抜することを目的にしているので、儲かる遺伝子がすぐにわかるように円の単位で表示されています。
長命連産効果は産乳成分の重みが40 %しか配分されていないので、これを単独で利用した場合、一部のマイナスブル (泌乳能力の低い種雄牛)が上位にランキングされる可能性があります。また、長命連産効果を使用した選抜は、乳量の年当たり改良量が+79㎏しか期待できないので、国の改良目標の達成には不安があります (表3)。
上述した理由から後代検定の候補種雄牛は、我が国の長期的な改良目標を示したNTPで選抜することが望ましいでしょう。後代検定済み種雄牛は、泌乳能力の低い種雄牛が一般供用されないように、これもNTPを利用して選抜します。そして、このように選抜された一般供用種雄牛は、多様な酪農家の改良方針に配慮しながら、NTPだけでなく長命連産効果を使用したランキングでも種雄牛を選択できるようにします (表4)。長命連産効果は、精液の選択範囲を広げ、特に国内精液の利用しやすい環境づくりに役立つと考えられます。