カナディアンデーリィネットワーク  2011年8月記事[1]より
繁殖能力に影響を与えるハプロタイプ
筆者:Brian Van Doormaal氏
(CDNゼネラルマネージャ/ホルスタインカナダ[2]CEO)


 遺伝子型解析の価値やそのメリットは向上し続けています。それは無限と言っても良いほどです。DNAバンクを作ったり遺伝子型解析を行う本来の理由は遺伝評価値の精度向上の為ですが、それ以外のメリットが急速に高まってきています。それが最もきわだつことは、血統登録簿の信頼性が完璧になるように親子判定をしたり、遺伝評価の精度を向上させてきたことです。


 カナダでは血統証明書の事故率が4%未満と少ないことから、遺伝子型解析からのメリットはそれほど大きくありません。AI種雄牛の遺伝子型解析は、未経産牛及び経産牛の牛群全体の遺伝子型解析を組み合わせることで、親子判定の範囲を越え、牛群または集団内の血統構造を明らかにする機会を与えてくれます。これらは登録団体の伝統的な血統登録簿によって血統を記録してこなかった酪農家にとっては大変重要なメリットになるでしょう。この機会を利用するため、ホルスタインカナダでは近い将来にこの分野で新たなサービスを始める計画をしています。


 さらに、正確な親子関係や血縁情報は同時に近親交配のより正確な測定とコントロールをもたらします。血統分析に基づく近交係数のレベルを推定する従来の方法に加え、遺伝子型データは科学者たちに全く新しい観点から近親交配を考えさせます。個体ごとの遺伝子型から、近親交配の程度はホモまたは固定した遺伝子の割合に基づいて数量化できます。そのようなホモ状態の遺伝子は自動的に全ての子牛に受け継がれますが、両親がヘテロの状態にあるとき、その子牛は優れた遺伝子の50%を受け取るチャンスを持っています。


遺伝子型解析の最も新しい副産物

 ポール・バンリーデン(Paul VanRaden)博士が率いる米国農務省家畜改良研究所(USDA-AIPL[3])の最新の研究は、乳牛の集団内における遺伝子型解析が別の重要な価値があることをもたらしました。北米地域のホルスタイン、ジャージーおよびブラウンスイスの50K SNPによって解析された遺伝子型プールを使用し、研究チームは不受胎、胚死滅または死産と関連していると思われるゲノム領域を特定するための研究を始めました。両親から子供へとDNAのブロックとして伝達される短いゲノム領域のことを“ハプロタイプ”と呼んでいます。ハプロタイプは、個体に発現する特定の形質に関連した遺伝子を含んでいます。ウシの染色体は30対ありますが、家畜の遺伝子型には、各染色体上にハプロタイプが数千組も含まれています。USDA-AIPLの分析による詳細なアプローチは、各品種における50K SNPの遺伝子型の中から、決してホモの状態で見つかることのないハプロタイプ、すなわち致死遺伝子に関与するハプロタイプに属するものを同定することでした。致死遺伝子がホモの状態であるとき(例えばある胚がそれぞれの親から受け継いだ遺伝子が同一のものだったとき)、個体は結果として早期胚死滅または死産となり、生存していないはずだからです。


  分析をさらに進めると、全部で5つの繁殖性低下に影響を及ぼすハプロタイプが同定されました。ホルスタインは3つ、ジャージーとブラウンスイスはそれぞれ1つずつです。表1には、繁殖性に影響するそれぞれの新たなハプロタイプを示しました。記号は品種コード(H,J,B)、ハプロタイプを示すHと連番号からなります(例えばHH1は、ホルスタイン種で最初に確認されたもの、HH2なら2番目、HH3は3番目…)。3種のホルスタインのハプロタイプに関して推定された集団内の出現頻度は4~5%でしたが、ジャージーとブラウンスイスではそれぞれ23.4%および14.0%であり、ホルスタインと比較して高い出現頻度を示しました。集団内の出現頻度のレベルは、2頭のキャリア個体による組み合わせが出来やすいか出来にくいかを反映しています。表1に示したように、USDAの研究者が受胎率とノンリターン率で測定することにより、これらのハプロタイプが繁殖性に負の影響を与えることを発見しました。また、各品種において遺伝子型解析された個体の集団内でそれらのハプロタイプを遡ったところ、知りうる最も古い共通祖先が特定されました


ホルスタイン、ジャージー、ブラウンスイスで新たに確認された、繁殖能力に影響を及ぼすハプロタイプ


繁殖能力に影響を与えるハプロタイプの公表と利用

 北米地域における50K SNP遺伝子型の大規模なデータベースの活用は、繁殖性に影響を与える新たなハプロタイプの発見をもたらしました。ただし、これらのハプロタイプは遺伝子型解析されたものだけに存在するわけではなく、北米地域及びさらに世界規模における各品種の集団に通用するものです。簡単に言えば、遺伝子型解析されていない個体はいずれのハプロタイプのキャリアでも無いというわけではないのです。


 アメリカでは、ホルスタイン協会が2011年8月の遺伝評価値公表の時点において、50K SNPのパネルを用いて遺伝子型を調査したすべての個体のハプロタイプの結果を公表することを決定しました。USDA-AIPLの分析による研究結果はごく最近発表されたもので、カナディアン・デーリィ・ネットワーク(CDN)と各品種登録団体は適切な発表方針と普及活動をどのように取り組むかを計画している段階です。酪農関係者や酪農家に対し、この遺伝子型解析によって得られた副産物的な新しい情報を親しみやすくし、さらに、これから結果的に生じる情報を品種改良プログラムにどのように応用するのが一番いいのか十分な時間をかける必要があります。そのため、カナダで正式にハプロタイプの公表が行われるのは2011年11月の遺伝評価値の公表時を予定しています。


要約

 アメリカ合衆国農務省(USDA-AIPL)の研究者らにより、繁殖性に影響を与える5つの新たなハプロタイプが発見され、そのうち3つがホルスタイン(HH1、HH2、HH3)、ジャージー(JH1)とブラウンスイス(BH1)がそれぞれ1つずつでした。それら品種の各々における数千もの遺伝子型の中には、DNA遺伝子型解析によって自動的に生じた副産物として、生産性をマイナスの方向に導くハプロタイプとして同定されるものがありました。この付加的な情報を酪農団体や酪農家に利用されることで、生産性をマイナスの方向に導く同じ型のハプロタイプを持つキャリア個体間の交配頻度を減少させ、それにより繁殖性の低下傾向のコントロールを助けるでしょう。アメリカでは既に結果が公表されていますが、カナダにおける発表の方針と普及計画は2011年11月に予定しています。

翻訳:登録部電算課 松井俊樹

外部リンク

1. (原文)Haplotypes Impacting Fertility Article - August 2011.pdf /Canadian Dairy Network
2. Holstein Canada
3. United States Department Agriculture - Animal Improvement Programs Laboratory


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