最近、レッド&ホワイト(R&W)の登録頭数が増加しています。ブラック&ホワイト(B&W)の牛群の中に、数頭のR&Wが混じっている風景は珍しいものではなくなりました。R&Wを好んで増殖している酪農家もいるようです。B&W増加の背景には、赤色毛遺伝子を保因する種雄牛の中に酪農家に気に入られる遺伝子を持った種雄牛がいるためかもしれません。図1には、R&Wホルスタインにおける雌牛の血統登録頭数を示しました。日本においてR&Wの雌牛が血統登録できるようになったのは1978(昭和53)年であり、1980年代の前半まで毎年900頭前後のR&Wが登録されていました。R&Wの血統登録頭数は、それから徐々に減少し、1993年生まれの雌牛では374頭にまでなりました。近年におけるR&Wの血統登録頭数は、2010年に2,062頭、2011年には1,810頭になりました。
図1を見ると、最近のR&Wの血統登録頭数の増加は北海道だけのように見えますが、R&Wの血統登録頭数の割合で示した図2を見ると、北海道だけでなく都府県でもホルスタイン集団の中にR&Wの割合が上昇していることがわかります。2010年生まれのR&Wのホルスタイン集団に占める割合は都府県と北海道でそれぞれ0.88%と1.06%、全国でみると1.02%です。さらに、2011年生まれになると同様にそれぞれ0.80%と1.17%になり、全国的には1.12%に上昇しています。
R&Wの上昇傾向は、日本だけではありません。例えば、カナダのCDN(Canadian Dairy Network, 2011年12月,B.Muir著)の資料によると、2010年生まれのR&Wの登録頭数の割合は2.2%、それ以前のカナダでもっとも割合が多かったのが1988年の1.9%ですから、2010年のR&Wの割合はその記録を抜いています。また、B&Wの中で赤色毛遺伝子を保因する割合は2010年生まれで14.5%、この割合はもっとも保因牛が多かった1982年生まれの20%より低いのですが、今後における上昇の兆しがみられます。
このようにR&Wホルスタインが最近、増加しているようですが、酪農家はR&Wのどこに魅力を感じているのでしょうか。今回は、R&Wの歴史を振り返るとともに、R&Wの遺伝的に優れた箇所を探りながら、R&Wの増加要因について考えてみたいと思います。
2003年4月号のホルスタイン・インターナショナル誌に掲載されたダグ・サヴェッジ(Doug Savage)の記事によると、R&Wホルスタインの起源は、1860年代から1880年代にかけてオランダから米国に輸出された7,757頭が基礎となっているそうです。サヴェッジは、この時に輸入されたホルスタインの約25%以上が赤色毛遺伝子の保因牛であったと推測しています。赤色毛遺伝子の保因牛については、カンザス州立大学のリー・マジェスキー(Lee Majeskie)博士が1960年代に行った研究において、ほぼ同様な割合を推定しています。カナダにおける赤色毛遺伝子の保因牛は、かなり早い時期に米国から輸入されたホルスタインの中に混在していたとのことであり、そのため当時の保因牛の割合は、米国とカナダで大きな差異がなかったようです。その後の約100年間は、この赤色毛遺伝子を根絶するための選抜が行われました。この頃の人たちは、B&Wのみがホルスタインの純粋種であると信じていたためです。しかし、いくらR&Wを淘汰しても、B&WからR&Wの子牛が生まれてきました。非常に優秀なB&WからR&Wの子牛が生まれることは、ブリーダーにとって大きな損失だったようです。その当時のR&Wの子牛は、当然登録はできませんから、生まれると誰にも知られることなく処分されてしまいました。また、人工授精用の種雄牛の中で、R&Wの子牛が生まれるからという理由で、元の所有者に返された種雄牛もあったようです。このようにして、北米におけるホルスタイン集団から赤色毛遺伝子の保因牛が急激に減少していきました。
赤色毛遺伝子の排除にストップをかけたのは、ABC リフレクション ソブリン(HOCANM198998, ABC REFLECTION SOVEREIGN)の登場でした。このABCは、1946年12月3日生まれのB&Wでしたが、赤色毛遺伝子を保因し、さらに共進会では数多くの娘牛が入賞しました。そのこともあって、ABCの息子牛は数多く生産されましたが、それらの半数は赤色毛遺伝子の保因牛でした。ABCの息子牛は、1960年代にピークをむかえ、ローザフ サイテーション R (ROSAFE CITATION R, HOCANM267150)、ローランド リフレクション ソブリン (ROELAND REFLECTION SOVEREIGN, HOCANM229512)、ローザフ ドミノ (ROSAFE DOMINO, HOCANM248762)およびシャンブリック ABC (CHAMBRIC ABC, HOUSAM1276654)は、特に有名です。
このように赤色毛遺伝子を持つ著名な種雄牛が出現したことで、ホルスタインからR&Wを排除するという理由がなくなってしまいました。初めてR&Wがホルスタインとして登録できるようになったのは、カナダにおいて1969年、米国において1970年です。そして、現在の赤色毛遺伝子を保因したホルスタインのほとんどはABCリフレクション ソブリンの子孫と言われています。サヴェッジは、集団における赤色毛遺伝子の保因牛の割合が1900年から1950年にかけてもっとも低くなったにも関わらず、最近の北米におけるホルスタイン集団では、130年前の基礎集団に存在した赤色毛遺伝子の割合に戻ってきていると述べています。
R&Wの血統登録は、日本でも米国やカナダと同様に長い間できませんでした。ただし、血統登録ができなかったのは表現型がR&Wの個体だけに限られていたので、赤色毛遺伝子の保因牛であっても表現型がB&Wであれば血統登録できました。古い資料によると、その当時でも予備登録(現在では存在しない登録制度)では、R&Wの登録が可能であったようです。日本においてR&Wをホルスタインとして血統登録できるようになったのは、1978(昭和53)年のことです。R&Wを登録申請する場合、名号中の後ろに必ずカタカナで「レッド」と入れるように登録規定が変更されたのは、まさにこの時であり、今でもその決まりは続いています。なお、1997(平成9)年からは「レッド」を「RED」と英文字で表示するよう登録規定が変更されています。血統登録が可能になったR&Wは雌牛のみであり、R&Wの種雄牛が血統登録できるようになったのは、それよりもずっと遅く、1991(平成3)年になってからでした。前述したように北米でR&Wが登録可能になったのは1969年ですから、日本における動きは種雄牛の血統登録解禁までの期間を入れるならば、20年以上も遅くなってしまったことになります。
R&Wをホルスタインとして認めたくなかった理由は、1959(昭和34)年から1962(昭和37)年にかけて開放式登録制度が採用されたことがあったようです。在来種との交雑が疑われるような特徴を持つR&Wは、純粋なホルスタインとして認めたくなかったという意思が働いていたようです。ただし、1980年代にオランダから最初に米国が輸入したB&Wの集団には、すでに赤色毛遺伝子の保因牛が25%も含まれていたと前述しましたが、北米からホルスタインの遺伝子を輸入してきた日本の場合は、すべてのR&Wが交雑種由来と言うには無理があります。また、R&Wの種雄牛が血統登録できなくても、見かけ上B&Wであれば、赤色毛遺伝子を保因したB&Wの種雄牛は昔から血統登録できたので、R&Wがホルスタインの血統登録集団から消え去ることはありませんでした。
斑紋がR&Wになる遺伝子は、上述したABCの系統が保因していた赤色毛遺伝子の他に、ブラックレッド(黒/赤色毛)とバリアントレッド(変則的赤色毛)の2種類の遺伝様式が知られています。ブラックレッドと言うのは、子牛の時にR&Wであっても生後数ゕ月経つとB&Wになってしまう不思議な毛色を示す遺伝子が関与しています。ブラックレッド遺伝子は、ロイブルックテルスター(Roybrook Telstar, 288790C, 40971)から発見されたということで、別名テルスターレッドとも呼ばれています。
ロイブルックテルスターは1963年にカナダで生産されましたが、その後、1967(昭和42)年7月に生体輸入され、北海道ホクレン種畜改良牧場(後の北海道家畜改良事業団、現在のジェネティクス北海道)に繋養され、日本で人工授精用精液が生産された時期がありました。テルスターの娘牛は、日本でも現在までに5,203頭が登録されており、当然日本のホルスタイン集団にもブラックレッド遺伝子がたくさん入ってきているものと推察されます。登録上のR&Wは生まれた時の毛色で決まるので、その後にB&Wに変色したとしても、R&Wに変わりはありません。それ故、血統登録では、R&Wの当該牛がブラックレッド遺伝子由来なのか、それとも通常の赤色毛遺伝子によって発現したものなのかを区別することができません。さらに、ブラックレッド遺伝子を検査する体制が整っていないこともあり、日本のホルスタイン集団にどのくらいの頻度でブラックレッド遺伝子が存在するかは正確にわかりません。
バリアントレッドとは、通常タイプの黒色毛または赤色毛遺伝子が存在する遺伝子座とは別の座位に存在する遺伝子が関与しています。バリアントレッド遺伝子を保因している個体は、たとえ黒色毛遺伝子を持っていても表現型はR&Wになります。また、通常の赤色毛遺伝子が関与したR&Wの両親から生まれる子牛はすべてR&Wになりますが、バリアントレッド遺伝子が関与したR&Wは、黒色毛遺伝子を保因している場合があるので、両親がR&WであってもB&Wの子牛が生まれる可能性があります。
バリアントレッド遺伝子は、スリナム シーク ローザベル(Surinam Sheik Rosabel-Red, CAN 3541221)という雌牛が突然変異を起こして獲得した遺伝子であると考えられますが、この遺伝子は2頭の息子牛、スリナム トレジャー(Surinam Treasure-Red, 387109C)とスリナム トラザーラ(Surinam Trazarra ET-Red, 386895C)が受け継ぎました。日本では、スリナム トレジャーの2頭の娘牛から生産された子孫が血統登録された記録が残っています。しかし、これらの雌牛はすべてB&Wであり、1996年生まれの個体が登録された後、登録上の血縁が途切れています。それ故、バリアントレッド遺伝子は、たぶん日本のホルスタイン集団に入ってきてはいないものと考えられます。しかし、血統登録原簿を見ると、R&Wの両親からB&Wが生まれたとする報告が毎年数10頭あります。たぶん「レッド」の報告漏れも含まれていると思いますが、バリアントレッド遺伝子が日本の血統登録集団にも保因されている可能性もあると考えられます。なお、ブラックレッドとバリアントレッドの遺伝様式については、2012年2月にホームページにアップした「ホルスタインの赤白斑を発現する3種の遺伝メカニズム」を参考にしてください。
さて、R&Wのどこに魅力があるのかという本題に迫るため、ここではR&WとB&Wの泌乳能力や体型を比較することで、R&Wのどこに遺伝的に優れた箇所が存在するか調べてみたいと思います。初めに、泌乳能力を比較してみました。図3には乳量、乳脂量、乳タンパク質量および無脂固形分量におけるR&WとB&Wの雌牛の遺伝的トレンドを示しました。R&Wの泌乳能力は、B&Wと比較し、すべての誕生年において遺伝的に低い傾向が認められました。図4には、乳成分率と体細胞スコアにおけるR&WとB&Wの雌牛の遺伝的トレンドを示しました。乳タンパク質率や無脂固形分率はR&WとB&Wにおいてグラフが重なる個所があり、明確な差異が認められませんが、乳脂率はR&Wが全体的に高い傾向が認められました。図5には、体型形質におけるR&WとB&Wの雌牛の遺伝的トレンドを示しました。体貌と骨格および肢蹄の遺伝レベルは、全体的に見てR&Wの遺伝レベルの方が高く、特に近年におけるR&Wの上昇が顕著に認められました。2000年代における乳用強健性と乳器におけるR&Wの遺伝的トレンドは、B&Wよりも低いレベルで推移していますが、最近においてR&Wの顕著な上昇が認められるようになりました。以上のことから、R&Wは、B&Wと比較し、泌乳量は劣りますが、体貌と骨格および肢蹄の遺伝レベルは高いように推察されました。
各形質の育種価は、標準偏差と呼ばれるバラツキがそれぞれ異なることから、R&WとB&Wの差が見かけ上大きく見えても、それは標準偏差が大きいために目立つにすぎず、本当は別の形質の遺伝的差異の方が大きい場合があります。そこで、平均値を標準偏差で割り算をして標準化し、R&WとB&Wの集団の差を比較することにしました(表1)。表1の右端に示した数値は、標準化平均の差(R&W-B&W)です。これらの差はB&Wの平均値を基準にしているので、プラスはR&W、マイナスはB&Wの遺伝レベルが高いことを示しています。R&Wにおける乳量と乳成分量の標準化平均の差は、マイナス(-0.096~-0.042)なのでB&Wの遺伝レベルの方が高い傾向を示す一方、乳成分率はR&Wの遺伝レベルの方が高い傾向にあり(+0.024~+0.215)、中でもB&Wの乳タンパク質率は、特に遺伝レベルが高いことがわかりました。体型形質の標準化平均の差は、すべての形質でプラス(+0.036~+0.260)の範囲にあり、このことはR&Wの遺伝レベルの方が高いことを示唆しています。特に体貌と骨格、肢蹄、乳器および決定得点の標準化平均の差はそれぞれ+0.2以上ありました。このことから推測されるR&Wの特徴としては、泌乳能力が遺伝的に低い傾向にある一方で、体型形質はR&Wの方が遺伝的に優れていることが判明しました。
また、R&Wが上昇している背景には、赤色毛遺伝子を保因する種雄牛の一般供用が増加していることが大きな要因と考えられます。表2には、2007年から2011年の5年間において日本でR&Wの娘牛を生産したことのある種雄牛を示しました。これらの中で、ラディ-ノパ-ク タレント ET (930377U)、パ-シュ-ト セプテンバ- スト-ム ET (6820564C)およびミツドフイ-ルド CCM アイオ-ン (53584)は、見かけはB&Wですが、赤色毛遺伝子の保因牛です。なお、平成24年度からは、赤色毛遺伝子の検査結果を血統登録証明書に記載する予定なので、そうなれば日本のホルスタイン集団において、どのくらいの頻度で赤色毛遺伝子が分布しているかもわかるようになります。
北海道ホルスタイン農業協同組合 登録部改良課 河原孝吉・後藤裕作
2012年3月5日掲載