ジャージー・ブラウンスイスの近交回避情報


 日本ホルスタイン登録協会北海道支局では、平成25年3月より、ホルスタインに加え、ジャージーとブラウンスイスの近交回避情報のサービスを開始しました。

 わが国の最近25年間のジャージー登録状況を見ると、毎年1,000頭前後の雌牛が登録されています(図1)。ところが、北海道で登録されたジャージーは2000年代ころから徐々に増加を始め、2010年代に入り全国の登録雌牛の約40%近くを占めるまでになってきました(図2)。北海道で登録されたジャージーの全国に占める割合は、2012年生まれで40.7%になっています。


 一方、ブラウンスイスの登録雌牛は、2000年代以降徐々に増加を示し、最近では毎年300頭以上が登録されています。北海道で登録されたブラウンスイスの全国に対する割合は、2012年において90.3%まで上昇しています。飼養規模からすれば、ホルスタインの登録頭数には比べものにならないかもしれませんが、北海道ではジャージーとブラウンスイスの登録頭数が徐々に増加しています。

図1.ジャージとブラウンスイスの登録雌牛の頭数


図2.北海道において登録されたジャージーとブラウンスイスの雌牛数の割合(%)


ホルスタインの平均近交係数を越えている


 図3には、ホルスタイン、ジャージーおよびブラウンスイスの登録雌牛における誕生年別の平均近交係数の変化を示しました。ジャージーの平均近交係数は、ホルスタインと同様に誕生年に対して上昇しています。また、ジャージーの平均近交係数は1990年代から現在まで、常にホルスタインよりも高い傾向が続いています。ブラウンスイスは、ホルスタインやジャージーと比較し、登録頭数が非常に少ないので、平均近交係数が毎年大きく上下しながら変動していますが、それでも全体的に見れば、誕生年に対して平均近交係数が上昇していることがわかります。特に、最近5年間の傾向を見ると、ブラウンスイスの平均近交係数は、ホルスタインやジャージーよりも高く、さらに顕著な上昇傾向が見られます。


図1.ジャージとブラウンスイスの登録雌牛の頭数


近交係数6.25%以上になる交配を避ける


 搾乳牛の集団における近交係数の上昇は、生乳生産量の低下や生産寿命の短縮化が起こる可能性が高く、これらは近交退化現象と呼ばれています。特に、近交係数の急激な上昇は、顕著な近交退化現象が生じるだけでなく、致死性の悪性劣性遺伝子がホモ化する確率が高くなり、場合によっては集団を維持できないくらいのダメージを与えることもあります。ただし、乳牛の遺伝改良は、優秀で限られた種雄牛を利用しながら進めていかなければならないので、近交係数の上昇を完全に食い止めることはできません。しかし、近交係数をゆっくり上昇させながら、悪性遺伝子を徐々に排除していくことは可能です。

 北海道支局では、以前から「近交係数6.25%以上になる交配をなるべく避けましょう」と皆さんに言ってきました。近交係数6.25%という基準は特に遺伝的に意味のある数値ではありませんが、なるべくゆっくり近交係数を上昇させるために具体的な数値があった方がいいだろうということで設定した数値です。なお、近交係数6.25%は、兄妹交配やおじ・めい交配で生まれる子牛の近交係数と同じです。これよりも血縁の濃い交配は当然ですが、最低でもこのレベルの近親交配を避けるようにということで設定した基準でもあります。

 図4には、ジャージーにおいて近交係数6.25%以上の雌牛の占める割合を示しました。近交係数6.25%以上の占める割合は1990年代の初めまで5%程度しか存在しませんでしたが、最近では都府県で43.9%、北海道で39.2%に上昇しています。
 図5にはブラウンスイスについても同様に示しました。ブラウンスイスの場合、近交係数6.25%以上を占める割合は顕著に上昇しており、最近では都府県で57.3%、北海道で68.7%を占め、半数以上の雌牛の近交係数が6.25%を越えていることがわかってきました。ホルスタインにおける近交係数6.25%以上の占める割合は20%程度ですから、ジャージーやブラウンスイスの近交係数がいかに高いかがわかると思います。

 このような近交係数の急激な上昇によって、ジャージーやブラウンスイスの生産性の低下が危惧される状況になってきたことから、北海道支局ではホルスタインに続いてジャージーやブラウンスイスの近交回避情報を提供することにしました。

図4.ジャージーにおいて近交係数6.25%以上の雌牛が占める割合


図5.ブラウンスイスにおいて近交係数6.25%以上の雌牛が占める割合


簡単操作で近交回避できるシステム


 ジャージーとブラウンスイスの近交回避情報は、ホルスタインの近交回避システムと一緒にお届けします。使い方は簡単です。CD‐ROMをパソコンにセットすると、図6の画面が表示されます。基本システムはホルスタインの近交回避情報ですが、ジャージーやブラウンスイスを飼養している農家は、右下の品種選択ボタンがアクティブな状態になりますので、それを選択すれば、ジャージーやブラウンスイスの近交回避情報を見ることができます。それ以降の操作はホルスタインの近交回避システムとまったく同じなので、手間は取らせません。また、ホルスタインを一頭も飼養していない農家は、最初からジャージーやブラウンスイスの近交回避情報を見る画面が表示されます。ジャージーとブラウンスイスの供用可能種雄牛は、過去1年以内の授精記録から抽出された比較的供用頻度の高い種雄牛を中心に選択できるようにしています。


図6.ジャージーとブラウンスイスの近交回避情報が追加された新システム


改良部 河原孝吉・後藤裕作
掲載日 2013年 3月11日


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