日本ホルスタン登録協会では、近交係数をゆっくり上昇させるため、近交係数6.25%以上の交配を避けることを目標に、 近交情報の発行等を進めてきました。今後も乳牛改良を進めながら急激な近交係数の上昇を避けるため、 近交回避システムなどの各種改良情報において新たに上限値を変更しました。



上限値の変更が必要な理由


 近交係数は、遺伝改良を進める限り必然的に上昇していくものですが、急激な近交係数の上昇は、生産性低下など近交退化を顕著にし、 悪性致死遺伝子(劣性遺伝子)の発現を増やし、集団の維持を困難にさせる場合があります。このため、ゆっくりと近交係数を上昇させる必要があります。 日本ホルスタイン登録協会北海道支局では6.25%を超えない交配を推奨し、この数値を基準に設け各種改良情報を提供してきました。しかしながら、 2017年生まれの雌牛の近交係数はすでに平均が6.22%に達し、多くの交配で6.25%を上回るケースが散見されています。 このような状況下で上限値6.25%を利用し続けることは、供用種雄牛の選定時に弊害となり遺伝改良の停滞に繋がり兼ねない問題です。



調査分析の実施


 新たな上限値の検討にあたり、近交退化に及ぼす影響についてあらゆる角度から調査を進めてきました。下の表には各近交係数における近交退化量の違いを示しました。

表1.近交退化量


 近交退化は、近交係数の上昇とともに比例的に増加しますが、6.25%を数%越えたとしても生産性を大きく低下させるほど強い影響はありません。 すなわち、供用可能な高能力の種雄牛を適切に活用することによって、近交退化量を上回る改良が十分に可能ということです。
 次に、近交係数が大きく上昇する交配が近交退化量にどのような影響をもたらすか表しました。 下図は本牛と母牛(1世代)の近交係数間の差と本牛の近交退化量の関係を示しています。


図1.近交係数間の差と本牛の近交退化量の関係


 乳量と決定得点の近交退化は、近交係数の上昇に対して加速的に増加しましが、上昇が2~3%程度ではそれほど大きい退化は示されませんでした。 繁殖性(空胎日数)の近交退化は、近交係数の上昇が1~2%台までは退化量に大きな差異は見られませんでしたが、3%以上になると近交退化が増加し始めました。 近交係数6.25%から1世代で一度に2%上昇しても繁殖性の影響は小さいことが推察されます。
 これらの結果から、近交係数を数%上昇させたとしても、端的に近交になる交配さえ回避すれば、近交退化に及ぼす影響は小さいと言えます。



新しい上限値は7.20%


 これらの分析結果を基に、2017年6月に開催された「第17回登録情報の活用に係る検討会」並びに2017年7月に開催された「平成29年度地区登録委員研修協議会」において 登録委員、授精師ならびに酪農関係技術者と意見交換を実施しました。その中で挙がった多くの意見は、「上限値の大幅な増加は、近交係数の急激な上昇を招く恐れがあり、 繁殖性の遺伝的不良形質に対する懸念もある」というものでした。こうした意見を踏まえ上限の変更では、今後の近交係数の上昇傾向についても継続的に注視しながら、 現状よりも約1%上げた7.20%に設定することになりました。
 今回、新たな上限値は7.20%と設定しましたが、近交係数に対する考え方はこれまでと何ら変わりはありません。極端な交配を回避し徐々に上昇させることが大切です。 今回の上限値の見直しの中で実施した調査では、血縁の近い祖先で近交になる組合せは近交退化が顕著になることが明らかになりました。
 このことから、近交回避システムなどの各種改良情報システムでは、そのような組合せとなる交配(共通祖先が1頭または2頭で近交係数が6%を超える交配)は推奨しないように予め制御しています。



さいごに


 近年のアメリカやカナダにおける近交係数は、ゲノミック選抜の影響もありその上昇速度が急速に高まっています。国内のホルスタイン集団では、この傾向は現時点においてまだ観察されていませんが、 今後同様の傾向がみられる可能性があります。こうした場合には、上限値の見直しを早い時期に再検討する必要があるかもしれません。 近交係数の変化については、今後も継続的により一層の注視が必要であると考えています。



北海道ホルスタイン農業協同組合


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